菊地 晴夫さん

菊地さんと美瑛の出会いは、渋谷のギャラリーで観た前田真三さんの写真展でした。代表作「麦秋鮮烈」を目の当たりにした時に、衝撃を受けたそうです。それはヨーロッパで見た風景にとてもよく似ていて、日本にこんな場所があることが驚きでした。都会でも心に触れる風景というものはあるものの、これは別格だと思い至り、実際に美瑛を訪れます。「美瑛の景色を通して感じたのは、これはただの自然なのではなく、農家の方々が作っている景観であるということです。人の営みが作った美しい環境がこの町にはあったんです」と菊地さん。前田真三さんのように、自分の手で美瑛の風景を撮りたいと思い移住を決意します。

写真を撮り始めて30年になる菊地さんは、写真を通して「上辺の美しさではなく、その中に秘められた本当の美しさをわかってもらいたい」と語ります。例えば風光明媚な丘の風景を見たら誰もがきれいだと思うでしょう。さらに丘というものは私たちに、その先はどうなっているのかを想像させます。実際に立ってみたいと思わせます。そんな真髄までしっかり感じてもらえる写真を菊地さんは撮ろうとしています。

こんなに長い間美瑛を撮り続けてこられたのは、毎年違った風景をこの地が見せてくれるからです。毎年異なる作物が育ち、気象条件が激しく変わる美瑛だからこそ、飽きずに何十年も撮影を続けてこられました。最近は動画やドローン撮影など、新たな表現方法にも挑戦している菊地さん。飽くなき探究心で、これからも美しい風景を追い求めながらシャッターを切り続けます。